住まいを購入する契約の流れ
一戸建て・マンション等の住宅購入時における、情報収集や申込・手続の方法について、押さえておきたい知識や注意点を解説しています。
【物件選びの方向性】
《1.物件選び(1) 一戸建てかマンションか》
国土交通省発表の「土地問題に関する国民の意識調査」では、住まいに関して一戸建てを志向する人が多いと言われています。購入予算の範囲内で「夢のマイホーム」が持てるなら、それが最善と考える方も多いでしょう。特に近年では、都心でも、立地面積を100m²未満に抑えた3階建ての一戸建て住宅の供給が増えており、こうした住宅は同程度の面積のマンションと比べても、同程度の価格で購入が可能となっています。
地価が高い都心では、「定期借地権」という形で土地を賃借し、その上に自己所有の住宅を建てるという形も視野に入ってきます。賃借契約の期間は通常50年とされており、その終了後に契約を更新しない場合は住宅を撤去して更地に戻し、地主に土地を返す必要がありますが、その条件で妥協できるなら選択肢に入れられるでしょう。
一戸建てと比べて、マンションは土や植物に触れられない点が物足りないと考える人もいますが、1階の部屋に専用の庭が付いたマンションもあるため、そうした物件を探せば希望を叶えることはできます。
また、マンションの欠点として「増改築が自由にできない」という点がよく挙げられますが、一戸建ての場合も、容積率・建ぺい率が限度まで使われている場合が多いため、必ずしも一戸建てなら増改築が自由ということでもありません。
総じて、一戸建てもマンションもそれぞれに長所と短所があり、全ての条件を満たすことは難しいといえます。予算とも相談しながら、自身や家族が重要視するポイントを考慮し、人生設計・生活スタイルに合った物件を選ぶことが重要といえるでしょう。
《2.物件選び(2) 新築か中古か》
一戸建てでもマンションでも、新築か中古かは悩ましい選択となってきます。立地や価格といった条件が同等なら誰でも新築を選ぶでしょうが、実際には、立地や設備などの条件が同じなら、当然新築の方が価格は高くなります。
中古の住宅を購入する場合、予算に限りがある中で、新築と比べて自身の求める条件にどれだけ近付けられるかが判断基準となってきます。立地や環境、間取りなど様々な条件が考慮対象となります。例として、職場と自宅の近さ(「職住近接」)が最優先なら、都心部の中古マンションが第一候補となりますし、子供のために広々とした間取りを確保することが望みなら、郊外の中古マンションや、一戸建ての中古住宅が選択肢となるでしょう。
また、中古住宅の場合、新築と比べて、ローン・融資や税制上の優遇が少ないという注意点もあります。一方で、新築にはないメリットとしては、新築では完成前に購入を決める必要がある場合もあるのに対し、中古なら事前に物件の確認ができることが挙げられます。
【物件選びの情報収集】
《1.物件情報の集め方》
優良な物件と巡り会えるかどうかは、収集する物件情報の量に比例してきます。物件の情報を集めるには、以下のような方法が挙げられます。
(1)「友の会」などの情報アンテナ
優良な新築物件は、分譲の際には人気が沸騰することもあります。そうした物件の情報は、新規分譲を行っている不動産会社の「友の会」などを通じてキャッチできます。こうした「友の会」に複数入会しつつ、新聞やネットなどの広告にも常に視線を巡らせておくのが肝要です。専門の住宅情報誌も多く出ており、これらを定期購読すれば、新築や中古の物件の耳より情報も得られます。
(2)インターネットの利用
自宅にいながら多くの情報にアクセスできるインターネットは、幅広い物件の立地・沿線、間取り、価格などの情報を素早く集めるのに適しています。
(3)チラシ・折り込み広告等
現在の住まいの近隣の物件情報は、ポスティングチラシ、新聞の折り込み広告などを通じても入ってきます。
こうしたチラシを見る時には、以下のことに注意しましょう。
不動産広告の内容は、各種法令で様々な規制を受けています。特に、不動産公正取引協議会が設定した「表示規約」には、「必要表示事項」「特定事項の表示義務と表示の禁止」「表示基準」「特定用語の使用基準」「不当表示の禁止」といった様々なルールが定められています。主要な不動産業団体の加盟会社は、広告を出すにあたり、これらの規約を遵守する義務があります。
しかしながら、「掘り出し物」とか「格安」といった不当な物件表示を広告に載せ、顧客を惹きつけようとする悪質な会社も、一部ですが存在しています。こういった表記は規約で禁じられているため、チラシ等を見る際には注意しましょう。
(4)不動産会社の店頭
物件情報を掲示している不動産会社も、もちろん有益な情報源です。不動産会社の役割には、「売主」や「販売代理」に加え、「売買仲介」の場合もあります。
売買仲介を業とする不動産会社の場合、買主の「こうした物件を探している」という依頼に基づき、物件探しから売主との交渉、契約の締結までをフルサポートしてくれます。知識に自信がない人や、忙しくて時間が取れない人にとっては助けとなります。また、物件を販売している不動産会社が、物件とは離れた場所にある場合、物件所在地の近くの不動産会社に取引の仲介を依頼できるというメリットもあります。
【不動産会社と買主・売主の関係】
《媒介契約とは》
不動産の「媒介契約」とは、物件の買主・売主となる人や会社が、売買などの仲介を不動産会社に依頼する契約のことです。
不動産会社は、この媒介契約を締結した時には、「物件特定のための必要表示」「売買すべき価額・評価額」「媒介契約の種類」「有効期間」「解除に関する事項」「成功報酬額」などの必要な内容を記載した書面を作成し、記名押印して、依頼者(買主・売主)に交付することなどが義務付けられています。
【物件購入の申込み・売買契約の流れ】
《1.物件購入の申込み》
物件の購入時には、不動産会社に用意されている申込書に必要事項を記入し、所定の「申込証拠金」を預け入れることが、購入の意思表示となります。よく宅地や建売住宅、マンション等の分譲広告に「お申込証拠金として◯◯万円と、ご印鑑のご用意をお願いします」などと書かれているのはこのことです。
人気の物件は抽選となるため、申込の前に情報の登録が必要となります。また、資力の確認のため、直近1年分や2年分の源泉徴収票や納税証明書など、収入を証明する書類の提出が求められることもあります。
●申込証拠金とは?
「申込証拠金」とは、いわゆる「予約金」「手付金」のことであり、物件購入の申込にあたって、買主から不動産会社を介して売主に支払われるものです。これには、真剣な購入申込であることを証明したり、申込の順位を確保するという意味合いがあります。
《2.重要事項の説明》
宅地建物取引業法では、物件の販売や仲介を行う不動産会社に対し、売買契約に先立って、物件に関する所定の重要事項を購入者に書面で説明することを義務付けています。不動産の取引には様々な法令が複雑に関係しているためです。これは「重要事項の説明」と呼ばれています。
重要事項の説明にあたっては、不動産取引の専門資格である「宅地建物取引士」を保有している従業員などが、資格の証明となる「宅地建物取引士証」を提示した上で、購入希望者に対して物件の詳細や取引条件などを説明することになっています。
この「重要事項」の内容は、「購入対象物件に関する事項」と「取引条件に関する事項」からなります。これらの法定の項目に該当する内容以外にも、通知を怠ることで買主に不測の損害を与えるような事実については、宅建業法第47条により説明が義務付けられています。
買い手としても、少しでも不明・不安な点があれば、この重要事項説明の際に納得いくまで質問し、説明を受けることが大事です。
《3.売買契約》
上述の重要事項説明を経て、購入希望の物件の詳細や、権利関係、法令上の制限など、取引に関する諸条件について十分に理解・納得したら、いよいよ契約の手続きに入ることになります。本来、民法上の契約は口頭の約束だけでも成立するものですが、宅建業法においては、取引の安全や買主の権利を保護するために、売買契約締結の当事者となる不動産会社に対しては、所定の事項が記載された「売買契約書」を買主に交付することが義務付けられています。これは媒介契約の場合も同様です。
売買契約書の記載事項は、物件の種類や取引の条件によって様々に異なってきますが、基本的には以下のような内容が含まれます。
(1)必ず記載される事項
・当事者(売主・買主)の氏名・社名及び住所・所在地
・物件を特定するために必要な表示
・所在および住居表示、登記上の地番・家屋番号、土地面積、建物面積等
・売買金額、支払方法、支払時期
・物件の引渡し時期(新規分譲の物件の場合、通常は竣工予定日と、それから若干の余裕を置いた買主への引渡予定日が表記されています)
・所有権移転登記の申請時期(通常、売買代金の支払が完了したときが、所有権移転の時期となります)
(2)その他、定めがあれば記載される事項
・売買代金以外の金銭授受の取り決め
・契約の解除に関する取り決め
・損害賠償額の予定・違約金などの条件
・住宅ローン不成立時の処置
・危険負担・瑕疵担保責任
・租税などの公課の負担
【契約後の手続き:売買代金の支払と登記】
《1.売買代金の支払の流れ》
住宅の購入は高額の取引であり、その手順も複雑なため、購入の申込みから物件の引渡しまでには多くの段階にわたって、様々な名称で売買代金を支払っていくことになります。その一般的な流れは以下のようになります。
(1)申込証拠金(購入申込時)
前述のように、物件購入の意思表示の証明や、申込み順位の確保のため、不動産会社を通じて一定の額を預け入れます。物件の内容にもよりますが、5~10万円程度が一般的です。
(2)手付金(本契約の締結時)
申込証拠金と合わせて、実際の売買契約の締結時にも、売買代金の10%程の手付金の支払いが発生することが一般的です。売買契約が問題なく履行されれば、この手付金は売買代金の一部として充当されます。なお、この段階では、「手付倍返し」といって、売主の側から手付金の倍の金額を買主に返還することで、売買契約を解除される可能性が残っています。
(3)内金(売買契約履行の着手時)
売買契約の成立後、売買代金を2回以上に分割して支払う場合、その前払いの支払い分は「内金(中間金・内入金)」と呼ばれます。主に新築物件など、契約締結から物件の引き渡しまでの期間が長い場合に発生します。
売買代金の一部である内金を支払った時点で、買主は売買契約の履行に着手したこととなるため、売主は「手付倍返し」で契約を解除することができなくなります。
(4)残代金(物件の引渡し時・ローン等の融資実行時)
物件の引渡しと引き換えに、売買代金の残金や諸費用の支払いを済ませ、所有権移転等の登記手続きを行います。売買代金から支払済の申込証拠金、手付金、内金を引いた金額が残代金となります。
住宅ローン等の融資金よりも残代金が多い場合、不足分は現金などで準備しておく必要があります。また、物件の引渡しから住宅ローンの実行まで期間が空く場合、それを理由に支払いを延期させることはできないため、ローン契約先の銀行などから「つなぎ融資」を受けて支払いを済ませることになります。
《2.登記手続きの流れ》
不動産の購入後には必ず「登記」が必要となります。登記とは、法務局の台帳(現在は電子データ)に物件の所有者等の情報を掲載することで、第三者に対し、その不動産の所有者が自分であることを証明するための法的手続きのことです。
時計や貴金属などの動産の場合、それを所持していること自体が所有権の証明になります。一方、不動産の場合、売主が複数の買い手に二重売りをしていたら、どちらの買い手が本当の所有者なのか証明できません。そうした争いを防止・解決する方法として、「登記」の手続きが法律に定められているのです。先に所有者としての登記を適法に済ませた者が、第三者に対して所有権を主張できることになります。これを法律用語で「対抗要件」といいます。
登記の手続きは本人が行うこともできますが、専門の国家資格者である司法書士に依頼するのが一般的です。
新規分譲のマンションや建売住宅の場合、不動産会社がその依頼を手配してくれますが、中古物件の購入や売却の際には、所有権移転登記の手続きについて自分でもある程度の知識を持っておくと安全でしょう。
【物件の瑕疵とアフターサービス】
《1.購入物件に瑕疵があった場合の取り決め》
「瑕疵(かし)」とは、物件自体の不備や、契約上の権利関係の不備などの「隠れた不具合」のことです。この「隠れた」とは法律用語の言い回しであり、契約の時点で買主が知らず、かつ普通程度の注意力をもってしても発見できない不具合という意味です。例えば、建物の屋根に欠陥があり、引渡し後に雨漏りが発生したという場合、買主が常識的な注意力を働かせても屋根の欠陥を発見しえない状態だったなら、それは「隠れた瑕疵」ということになります。
不動産の売買契約においては、売主は、契約通りの、つまり瑕疵のない完全な物件・権利を買主に引き渡す必要があります。それにも関わらず、上の雨漏りの例のような、事前に明らかでなかった欠陥が後から判明した場合、売主は買主に対して一定の責任を負うことになります。これを民法に定められた「売主の瑕疵担保責任」といいます。
契約の内容には、この瑕疵担保責任に関する特約が含まれている場合もあるため、締結時には必ず隅々まで確認するようにしましょう。
《2.アフターサービスとその基準》
民法には、「瑕疵担保責任」の及ぶ範囲について具体的な規定はないため、実際の欠陥が補償の対象となるかどうか、売主と買主の間で揉める可能性があります。
物件の購入後、物件自体や契約関係に何らかの欠陥が見つかり、買主が売主にその補償を求めたとしても、売主がそれを先述の「隠れた瑕疵」の範疇だと認めなければ、最終的には弁護士を立てて裁判などで争うしかありません。こうした法的手続きには時間と費用がかかる上、肝心の物件の欠陥に速やかに対処することができません。
そのようなトラブルを未然に防ぐため、新築物件の売主が事前に、建物の部位ごとに欠陥部分の補修について規定し、買主との契約に含めている場合があります。これがアフターサービスと呼ばれるもので、営業上の売り文句や消費者サービスの一環として不動産会社が自主的に定めているほか、不動産協会でも一定の「アフターサービス規準」を設けています。
事前にアフターサービスの範囲として規定された部位については、買主側の使用責任や経年劣化等によるものを除き、買主の負担で欠陥を速やかに補修するといった取り決めがなされています。
《3.新築住宅の10年保証》
新築住宅の売買契約においては、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」の規定により、「構造耐力上主要な部分(構造躯体)」と「雨水の浸入を防止する部分(屋根、外壁の仕上、下地等)」について、10年以上の瑕疵担保責任を定めることが売主に義務付けられています。
また、任意の制度ですが、国土交通大臣の登録を受けた「住宅性能評価機関」が、工事会社や不動産会社の依頼により、新築住宅の性能を個別に確認し、「住宅性能評価書」を交付するということも行われています。
《4.瑕疵担保責任の履行の確保》
新築住宅には10年以上の瑕疵担保責任が義務付けられていますが、売主となる不動産会社などに十分な資力がなかったり、保証期間内に経営破綻してしまった場合には、買主に対してこの責任が履行されないリスクが生じてしまいます。
そのため、品確法に規定された新築住宅の売買においては、「保証金の供託」または「住宅瑕疵担保責任保険への加入」により、万一の際の保証に備えた資力を確保することが売主に義務付けられています。